役員給与の考え方

 この仕事をしていると会社のお金と個人のお金の境目があいまいで、経費と称し派手な生活をしている経営者にたまに出会います。

 しかし、役員への報酬は税務上非常に厳しい要件が設けられており、思わぬところで多額の税金が発生する可能性があります。今回は、この複雑怪奇な役員報酬の税務についてご紹介していきたいと思います。

 なお、本稿の一部には個人の見解が含まれているものがありますので、個別事例は、事前に専門家へご相談ください。


1.役員報酬の基本的な考え方

 役員に対する給与は、原則として「定期同額給与」か「事前確定届出給与」のいずれかでなければ税務上損金にできません。税務上制限を設けている理由は、“会社で利益が出そうになったら社長が自分自身の報酬を増やして、法人税を減らす”、といった利益操作に使うことを防止するためです。


2.定期同額給与

 では、定期同額給与とはどのようなものでしょうか。文字通り「一定期間」「同額」である給与です。つまり、役員報酬は定額であることが求められています。

 ただし、それでは報酬を永遠に増減させることができなくなるため例外的に期首から3か月を経過する日までの間は変更が認められています。このタイミング以外での増減は損金算入額に制限がかかる可能性がありますので、やむを得ない場合以外は避けるべきでしょう。以下、ケースごとに確認してみます。


①事例による確認

3月決算会社(5月末に株主総会を開催)

ケースA 6月から報酬増額

 増額のタイミングが決算から3か月以内であるため、定期同額給与と認められます。

 そのため、全額損金に算入できます。


ケースB 10月から報酬増額

  決算から3か月過ぎての変更であるため10月からの増額部分は損金に算入できません。


ケースC 6月に増額し、さらに11月に増額した場合

 6月の増額は問題ありませんが、11月の増額は定期同額とは言えず、11月~3月の増額部分については損金に算入できません。


ケースD 6月に報酬を増額したが、11月に報酬をもとに戻した場合

 6月の改定自体は問題ありませんが、11月に減額したことが定期同額とは言えません。この場合、少ない金額を基準にし、でっぱり部分が損金になりません。

 例えば、目標利益を達成させるために、役員報酬を減額した場合なども不当な減額として、損金に算入されないことになります。


②変更が認められるケース

 例えば、期中に取締役に昇格した場合や、代表権が付いたなど地位や職務が大幅に変更した場合は、3か月を超えた変更でも認められます。また、経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由により報酬を減額した場合にも認められると思われます。


3.事前確定届出給与

 従業員には賞与を支給していても役員は、“定期同額”だから賞与は出せない、と考える方いらっしゃると思います。実は役員にも賞与を出す方法はあります。

 それが「事前確定届出給与」という方法です。これは納税地の税務署に対し、「誰に」「いつ」「いくら」支払うことをあらかじめ届け出て、その届け通りに支払うことで、毎月同額以外の給与も損金に算入できる、という制度です。以下、ケース別にご説明します。


①事例による確認

ケースA

 届出・・・12/10社長に100万円支給

 支払・・・12/10社長に100万円支給

          100万円の支給全額損金算入できる

ケースB

 届出・・・12/10社長に100万円支給

 支払・・・12/10社長に150万円支給

          届出金額と異なるため、支給額全額の150万円が損金算入できない

ケースC

 届出・・・12/10社長に100万円支給

 支払・・・12/10社長に50万円支給

          届出金額と異なるため、支給額全額の50万円が損金算入できない

ケースD

 届出・・・12/10社長に100万円支給

 支払・・・3/10社長に100万円支給

          支給日が異なるため、全額損金算入できない


4.さいごに

 税務上損金にする方法を説明してきましたが、逆に考えると、損金にしなければ役員報酬はいつでも支給することができます(もちろん法律的な手続きは必要ですが)。そのため、「頑張っている経営幹部に決算賞与を支給したい」というケースでは、損金にはなりませんが支払うこと自体は可能です。

 社長の給与はいくらが適正か?正解はありません。しかし、税金を増やしてまで行う不要不急の役員賞与。将来会社に絶対必要な投資資金を食い潰すような高額な役員報酬。社長の個人的経費を会社に負担させている。ほんとうにこのままで大丈夫ですか。



塚越税務会計事務所

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